生薬辞典
ショウケンチュウトウ
処方のポイント
・腹部を温める桂皮、止痛効果の芍薬、消化器を保護し機能を高める甘草・大棗・膠飴で構成されています。
・温めると楽になる腹痛に適応します。小児の夜尿、寝つきが悪い、頻繁な感冒羅患や腹痛等、広範囲の症状に応用します。穏やかな甘味なので、体質虚弱の人や小児にも使いやすいです。
・お湯で溶いて温かいうちに飲むのが効果的。
~~目次~~
建中湯の名は、中を建てる(しっかりと丈夫にする)という効能に由来します。
中(チュウ)には、二通りの解釈があります。
一つは、漢方用語の中焦のことで、臍から上部の腹部にある漢方医学の脾(ヒ)と胃、すなわち上部の消化機能を建てる(丈夫にする)という解釈です。建には健と同様に、しっかりと丈夫にするという意味があります。
二つ目は、おなかという意味です。小建中湯の適応症状は古典に「腹中急痛」と記載されています。これに基づいて建中は、中(おなか)を建てる(丈夫にする)という意味も含まれます。小建中湯は上腹部痛だけでなく下腹部痛(臍周辺の腹痛)に用いられています。
体力虚弱で、疲労しやすく腹痛があり、血色がすぐれず、ときに動悸、手足のほてり、冷え、ねあせ、鼻血、頻尿および多尿などを伴うものの次の諸症:
小児虚弱体質、疲労倦怠、慢性胃腸炎、腹痛、神経質、小児夜尿症、夜泣き
小建中湯は、胃腸が弱くて偏食(ムラ食い)の子供の腹痛、便秘、夜尿症によく用いる処方です。
また最近では中学・高校生の成長痛などにもよく用います。
病態は、軽度の気血不足(陰陽両虚)や胃腸機能低下・冷え(脾陽虚)がベースにあり、自律神経の失調による平滑筋の痙攣・蠕動亢進を生じて、痙攣性の腹痛や便秘などを起こします。
この腹痛や便通異常は普段から神経が緊張気味の方で、冷え、疲労、精神的な原因によって悪化することが多いです。
またこの腹痛は空腹時に痛み、温めると軽減し、子供では臍周辺がが痛むことが多いです。
桂皮
生姜
大棗
芍薬
甘草
膠飴
配合生薬の構成は、「桂枝加芍薬湯」に膠飴を加えた内容ですが、「芍薬甘草湯」に、補陽(桂皮・生姜)、補脾(大棗・膠飴)を加えたものとも考えることができます。
一つ一つの効能を見ていくと
芍薬は、中枢性、末梢性に平滑筋、骨格筋のけいれんを抑制し鎮痛します。
甘草・大棗・膠飴・桂皮は、鎮痙作用があります。
生姜・桂皮は、血行を促進し、消化管の分泌を高め消化吸収を強めます。
膠飴は、本方の主薬で「健脾には必ず甘味を用いる」という治則にもとづいて配合され、大量の麦芽糖やたんばく質を含み栄養補給を行います。
さらに細かく効能を分析すると
芍薬は寒性の陰薬でその酸味と甘草の甘味によって「酸甘化陰」し、中焦の陰を養います。この2薬は「芍薬甘草湯」の組成でもあり、胃腹部の疼痛を緩和します。
桂皮は温性の陽薬でその辛味と甘草の甘味によって「辛甘化陽」し中焦の陽気を助け寒を除きます。
穏やかな陰薬と陽薬の組み合わせによって、中焦の陰陽を調和し、中焦の機能回復をはかる生姜と大棗の組み合わせは、表の営衛の調和、および中焦の陰陽を調和し、これに甘草を加えると、中気を温めて、養う作用が生じます。
「桂枝湯」と類似していますが、主薬に温中補虚作用のある膠飴と芍薬を倍量使用すると、解表作用はなくなり、胃腹部の虚寒を治療する効能があります。
・「桂枝加芍薬湯」とは膠飴の有無だけの違いです。同様の腹痛が見られますが、排便異常(下痢や便秘)が顕著な場合に用いられます。ひどい便秘を伴う場合大黄を配合し「桂枝加芍薬大黄湯」を用います。
・「桂枝加竜骨牡蠣湯」は下腹部の腹直筋が緊張。腹部大動脈の拍動が亢進し、神経過敏、精神不安などが顕著な場合に用います。
①小建中湯は作用が穏やかなので脾胃虚寒の症状が強い場合は、「大建中湯」を用いたほうがよいです。
②補陰薬が配合されているが陰虚火旺の微熱には適していないです。
③小建中湯は甘味が強いので胃満腹脹の気滞症状がみられるときは適していないです。
傷寒論、金匱要略(漢方の古典といわれる中国の医書)に収載されているお薬です。
「傷寒、陽脈濇(濇はしぶる、なめらかでないこと)、陰脈弦なるは、法当(マサ)に腹中急痛すべし、先ず小建中湯を与え、差(イ)えざるものは小柴胡湯之(コレ)を主(ツカサド)る」・・・(傷寒論)
「傷寒二三日、心中悸して煩する(動悸がして苦しい)者は、小建中湯之を主る」・・・(傷寒論)
「虚労にて、裏急、悸、衂(鼻血)、腹中痛み、夢に失精し、四肢痠疼(手足がだるくて痛い)、手足煩熱、咽乾口燥(唾が少ないような喉の渇き)する者は小建中湯之を主る」・・・(金匱要略)